古い図面を見返していると、目に留まる一枚があります。
ある建て主さんから「気になっている土地があるけれど、ここに自分たちの望む家が建つだろうか」とご相談をいただき、土地購入の判断材料として作成したファーストプランです。
敷地は、市街地の一角にある細長い土地。 すぐ脇には小さな水路(川)が通り、道路が斜めに取り付く、いわゆる変形地でした。 周囲には住宅が建て込んでおり、視線や採光をどう処理するかが一見すると難しそうな敷地条件です。
ただ、現地に立って周囲の抜けや風向きを確かめていると、変形地ならではの面白さが見えてきました。
1階は、道路や隣家からの視線を建物の外壁ですっきりと遮り、奥へと続くトンネルのようなアプローチを計画しました。
そのトンネルを抜けた先に広がるのが、玄関ポーチを兼ねたプライベートなアウトドアリビングです。
内部の土間玄関とひと続きになるよう屋内外を曖昧につなぎ、外からの視線を気にせず小さなお子さんが安心して外遊びを楽しめる場所に。その奥に、静かに落ち着いて過ごせる寝室や和室を配置しました。
そして2階には、水路側の視線の抜けを活かした細長いLDKを計画しました。
ワンルームのような空間全体と家族の様子をぐるりと見渡せる位置にキッチンを据え、勾配天井の一部には天窓を設けて上からやわらかな光を落とす。片隅には薪ストーブを置き、屋根から煙突を立ち上げる構成です。
敷地の条件を整理していくうちに、自然とこの形にまとまっていきました。
提案をお見せしたとき、建て主さんも「この土地でもこんな暮らしができるんですね」と、とても喜んでくださったのを覚えています。 僕自身も手応えを感じていて、ふたりでこれからの暮らしを色々と想像した、思い出に残るプランとなりました。
──ただ、実際の土地探しには様々な巡り合わせがあります。
その後、別の土地とのご縁があり、最終的にはそちらを購入されることになりました。 新しい土地でまったく別の間取りの家が完成し、今もご家族で心地よく暮らしていらっしゃいます。
そのため、この図面の家が実際に建つことはありませんでした。
家づくりの仕事をしていると、こうした「建たなかったプラン」ができることがあります。 けれど、土地の可能性を一緒に確かめ、自分たちの暮らしの輪郭をはっきりさせていくための、大切なステップだったと感じています。
──それからしばらくして。 なかなか買い手がつかなかったその土地の前を、先日久しぶりに通りかかりました。
そこには、よく見かけるような建売住宅が建っていました。
せっかくの水路側の抜けを活かすこともなく、画一的な間取りで塞がれてしまっている佇まいを見て、個人的には少しだけ淋しい気持ちになりました。
どんな土地であっても、そこだけの光の入り方や視線の抜けがあります。 土地が持っている条件をきちんと見極めて、素直に引き出してあげること。 設計の仕事においてそれがどれほど大切かを、改めて考えさせられた出来事でした。
今でもスケッチを見返すたび、当時のやり取りや、敷地と向き合っていた時間を思い出します。

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